3.古の遺産


古代の文明では、銃を用い独自の兵法で戦う者達がいた。
その銃は現代とは異なる技術で作られており、完全に再現することは不可能であった。
遺跡から発掘された銃と兵法書が、当事を語る唯一の物である。
やがて、それらの銃と兵法書を利用して古代の戦法を身につけようとする者が現れ始めた。
発掘された銃は「短銃」と「小銃(ライフル)」の2種類あり、
前者を使うものは銃使い、後者を使うものは兵士と呼ばれている。
本来希少価値であり、選ばれた者にしか与えられないはずのそれらの武器だが、
いつの頃からかその一部が心無い者達によってただの売買の対象にされ、
古代の兵法に関して全く知識のない人間の手にも渡るようになっていた。
こと、冒険者の集うこの旅人の街では。

 「これが、古代で使われてたっていう銃か・・・」
光が、手にした小銃をまじまじと見つめながら呟いた。
本来なら店舗として利用できる、木製のカウンターのあるわりと広めの部屋。
しかし、展示品すらない状態の光たちの家では明らかに無駄な空間になっている。
今この部屋にあるのは、先ほどの来訪者が残した小銃と、
カウンターに肘をついて凭れながらそれを弄っている光の姿だけである。
遺跡から発掘された物であるはずなのに、どう手入れされたのか、
あるいは特殊な加工でもされているのだろうか。
小銃の銃身は黒く光沢が残っていて、そんな年月の流れなど微塵も感じない。
古代に使われていたという銃のことは話には聞いていた。
発掘された銃を扱って戦う者が現代にいることも。
一度でいいから実物を見てみたいとは思っていたのだが、まさか入手できるとは思いもしなかった。
 「結構あっさり手に入る物なのかな」
保管したままで使う気のない武器との交換という方法で手に入れてしまい、光は少し拍子抜けする。
しかも、こちらから持ちかけた話ではないのだから。
上から見たり下から見たり銃口を覗いてみたりとその小銃をじっくり観察していたが、
やがて静かにカウンターの上に置いた。
ずっと剣を扱ってきた自分にはどうも銃器という飛び道具を使いこなす自信がない。
それに、ようやくそれなりにさまになってきた聖戦士の道を捨てる気にはなれない。
自分が持っていても宝の持ち腐れだ。
要相談で展示でもしようかと考えていたその時、
 「ただいまぁ〜」
準備中の札がかけられたままの扉が開き、晴日が脳天気な声を上げながら入ってきた。
手には果物やパンなど大した調理なしに食べられる食料の入った袋が抱えられている。
相変わらず料理をしようという気はないらしい。
 「おぉ」
晴日の姿を認めた光が低く声をかける。光にとってはこれが返事代わりなのだろうか。
カウンターに頬杖をつき、何を買ってきたのかと晴日の持ってる袋を見つめていると。
 「あれ、何それ」
先に晴日の方が光の目の前に置かれた銃に興味を示したようだ。
 「ん?・・・ああ、交換で貰った」
光の言葉を聞いているのかいないのか、晴日は抱えていた紙袋を置き、
替わりに手にとった銃をしげしげと眺めている。
 「壊すなよ」
置かれた紙袋の中を覗きながら光が素っ気無く言った。
 「何、これそんなにすぐ壊れるの?」
眉を寄せる晴日に、光はにやりと笑みを浮かべて晴日の方を見た。
 「お前だからな」
晴日は、結構不器用なのである。そのつもりはなくても壊したりすることがあるかもしれない。
 「どーゆー意味だよ」
 「言葉通り」
明らかに小馬鹿にした様子の光に腹を立てた晴日はおもむろに銃口を光に向ける。
不器用なのは自覚しているが、大して器用なわけでもない光に馬鹿にされる筋合いはない。
 「やめろ、危ないだろ」
まさか撃ってはこないだろうと思いつつも、光はわずかに警戒する。
その素振りに、今度は晴日が笑みを浮かべた。
 「びびってんの」
まんまと立場の逆転に成功したようだ。
からかうのは好きだがからかわれるのは大嫌いな者同士、いつも対決である。
少しでも「隙」を見せたら負けになるのだ。今の光がそうであるように。
 「この武器そんなに強いのか」
再び銃を眺め始めた晴日は、
何を思ったのか、いきなり引き金を引いた。
ドンッ!
 「だぁっ!」
 「おわ」
銃弾はとっさに身を翻した光の横を通って、後ろの壁に穴を開けた。
撃った張本人の晴日は反動でよろけている。
 「おー、すごい」
 「・・・家の中でぶっ放す奴があるか!しかも人に向けてんじゃねぇよ!」
銃弾の打ち抜いた穴を見て感嘆の声を上げる晴日に光が食って掛かった。
 「ちゃんと外したじゃん」
さらりと言ってのける晴日だったが、問題はそこではない。
 「試し撃ちは外でやれ!」
怒鳴りながらドアを指差した光は、ドアのところの人影に気付いた。
 「あ・・・まーさん」
 「え」
晴日も振り返ってドアの方を見る。
確かに、半端に開いたドアの陰から『まーさん』・・・隣の家の住人、南戸がこちらを覗いていた。
南戸は2人の冒険仲間である。
隣同士ということで2人とも親しく、2人からはファーストネームの「まあ」で呼ばれている。
 「何してるんですか、そんなところで」
 「ちっすー。何か今すごい音がしたんで覗いてみたんだけど・・・」
促されて中に入った南戸が首を傾げる。どうやら、銃声を聞きつけて来たらしい。
 「ああ、この馬鹿が家の中で銃撃ちやがってですね」
呆れ顔をしながら光が晴日の頭を平手で叩いた。
 「てっ・・・殴んなよ」
 「少しは反省しろ、てめぇ」
睨み合う2人を見て、南戸があははと笑う。
 「相変わらず仲いいっすね〜」
 「よくないです」
間髪入れずに否定する2人だが、その声も見事に重なっている。
 「それはいいとして・・・怪我は?」
 「ああ、壁に穴が開いただけです」
2人の身を心配している南戸に、光は穴の開いた壁を指差してみせた。
 「大体お前は物事考えなさすぎなんだよ!」
 「いつもぼーっとしてるあんたに言われたくないね!」
 「こんな考えなしの行動とる奴に言い返す資格はねぇ!」
毎度のごとく光と晴日の兄妹喧嘩が始まる。
もっとも大抵は怒鳴り合いの口喧嘩で、あまり暴力沙汰にはならない。
たまに晴日が手近な物を投げつけたり持っている物で殴ったりするくらいである。
今回は口喧嘩で済みそうだったが、間に取り残された南戸はただただ苦笑いするのみだった。

 「で、結局取られちゃったんだ」
南戸の問いに、光が仏頂面のまま頷く。
 「俺の物は自分の物だと思ってますな、あいつは・・・」
銃が元の兄妹喧嘩から1日。
光が手に入れたはずの銃は、何故か晴日の物になっていた。
もっとも、晴日が勝手に持って出かけてしまっただけなのだが。
文句を言う相手のいない光は、こうして隣の南戸の家を訪れて愚痴をこぼしているのである。
 「第一、兵法どころか銃の扱い方もろくにわかってない奴が、銃持つだけで兵士になれるわけないでしょう?
 ただの『兵士ごっこ』ですよね」
 「まあねー」
光の愚痴を流しながら、南戸は光に紅茶を勧める。
 「あ、どうも。・・・しかし、何かしょっちゅう晴日に物取られてるような気がするんですが」
例えば復活の石とか・・・と言いかけて、やめる。
晴日が堕天使に転生したことは光と晴日しか知らない。
下手な事を言って他の者に知られては厄介なことになりかねない。
 「でもどうせ使わない物なんじゃないの?光も銃使えないでしょ」
 「それはそうなんですけどね」
もっともらしい南戸の意見だが、光はどうしても納得いかないと言わんばかりに大きく溜息をつく。
 「今度あいつが何かいいもの家に置いてたら使ってやろ・・・」
視線を宙に向けながら、光がぽつりと呟いた。
 「お兄ちゃんは大変だね・・・」
負け犬の遠吠えのような虚しさのある光の独り言に、南戸はやはり苦笑するしかなかった。


                                  <続く>


【後書きのようなもの】
兵士編です。晴日はすでに堕天使なのでなんちゃって兵士です。(ぇ
今回はあまりいいストーリーが練れなかったのでイマイチな出来です(汗)
堕天使の次に兵士といわれても・・・(笑)
なんちゃってになるしかないじゃないですかヽ(´ー`)ノ
もう各話各話でこじつけばかりです。これからもそうでしょうね(笑)
それにしても、光がただの苦労人になってきたような・・・ま、いいか(笑)
今回他のプレイヤーの方が初めて登場です。まーさん本人に許可は貰いました(笑)
口調とか違うかもしれませんが気にしないで下さいね(爆)
これからも他プレイヤーの人が出る・・・かも?
以上、作:山繭(御雷あきら) 監修(?):蒼さん 友情出演:まーさんでお送りしました(笑)


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