3.初めてのお使い


海凪が怒りの海岸についたのは昼過ぎだった。
あきらから頼まれた「お使い」はこれが最後である。
転寝からの寝過ごしをしたのは昨日の事。
慌てて楽しみの密林までアイテムを取りに行ったが、モンスターに出くわして怪我をしたり、わかりにくい地形に道に迷ったりと
思ったより時間がかかってしまい、結局自宅に戻った時には真夜中になっていた。
おかげで疲れた身体を癒すには不十分な睡眠時間しか取れず、だるい身体を引きずるようにしてここまで来たのだ。
 「・・・急いでも夜だな」
目の前に広がる海を見つめながら、海凪がうんざりと呟く。
もっともここで文句を言っていても何もならない。仕方ないとばかりに歩き出した。

怒りの海岸は岩場の多い海域である。
おかげである程度までは徒歩でも進めるが、沖合いまで行くとなるとやはり船が必要となる。
そのため、海岸には船着場と数隻の小船が用意されていた。
一見質素な手漕ぎ船であるが、モンスターが出現する事を考慮し、特別な魔法がかけられている。
その魔法の効果で船の強度は増しており、また安定を得るため常に水平を保つようになっていた。
波に煽られれば水平のまま流されてしまうのであるが。
冒険者に限り、この船は無償で貸し出される。
ただし、船着場での簡単な手続きが必要となる。万が一沈めたり壊したりした場合に修理費を請求するためである。
その値段はかなりの額になると言われている。
海凪も船着場を訪れ、その1隻を借りて海に漕ぎ出した。
 「漕ぐのも結構骨かも・・・」
これだけの技術があるのなら漕がずに進む船は作れないものかなどと考えながらも、少しでも早く用事を済ませようと懸命に船を漕ぐ。
ようやく目標の場所の半分くらいまで来たところで、前方の海面が不自然に波打った。
 「・・・モンスター?」
海凪の呟きに答えるように海面に姿を現したのは、9つの首を持つ紫の身体の大蛇・・・ヒドラだった。
海凪の姿を確認すると、ヒドラの9つの頭が一斉に襲い掛かってくる。
 「うお」
海凪は体勢を低くしてその攻撃をやり過ごしながら、1本の首を斬り裂いた。
切り裂かれた首は仰け反って海凪から離れたが、他の8つの首が執拗に海凪を狙ってくる。
疲れのせいだろう、海凪の動きはいつもよりやや鈍い。
それでも深い傷は負わされずに済んでいたが、
ゴオッ!
 「ぐ・・・ごほ、ごほっ」
1本の首が吐き出した毒のブレスをかわせずにまともに受けてしまった。
その上僅かに吸い込んでしまい、毒が喉を焼く。
咳き込む海凪を一気に食い殺そうと、別の首が牙を剥き出しにして向かってきた。
それに気付いた海凪は身体を反らせてぎりぎりの所で避けた、が。
 「わ゛ぁ゛っ」
無理な体勢になったせいか、バランスを崩して背後の海に落ちてしまった。
慌てた海凪はもがくようにして体勢を整え、海面から顔を出す。
 「げほっごほっ」
毒を受けた上海水を飲んだ事でひどく息苦しい中やっとの事で船に手をかけたが、這い上がろうとした瞬間ヒドラの1本の頭と目があった。
 「だぁっ」
海凪が叫ぶと同時にヒドラが大きく口を開いた。
だが、その牙は海凪に届くことはなかった。突然ヒドラが絶叫を上げ、悶えたのだ。
ヒドラが暴れたせいで生じた波に煽られた船は、近くの岩礁にぶつかった。
その船に捕まったままだった海凪も岩礁に身体を強く打ち付け、そのまま気を失った。

意識が戻ったときにまず感じたのは、息苦しさ。
そして、何やら後ろ向きに引きずられる感覚だった。
うっすらと目を開けてみると、確かに引きずられている。息苦しいのは誰かに後ろ襟を掴まれているせいらしい。
 「・・・な・・・?」
襟を緩めながら身体を動かして抵抗すると、進みが止まった。
 「あ、起きたのか」
後ろ襟をようやく解放され振り返ると、そこにいたのは若草色の服を着た少年だった。
やや長めの黒い髪。小柄で細身の体格。
剣を携えている事から冒険者の1人だろうということは推測できる。
 「あ・・・えーと・・・?」
 「何か船から落ちて溺れかけてたみたいだったから助けたんだけど」
何故自分がこの少年に引きずられていたのかわからずに記憶を辿る海凪だが、思い出すより先に少年が説明した。
それでようやく海凪はヒドラとの戦闘のことを思い出す。
 「あ、ありがとうございます・・・。もしかして、ヒドラも倒してくれました?」
 「うぃ」
あの時、この少年がヒドラを攻撃したからヒドラが攻撃を止めたのだと海凪は理解した。
もっとも、攻撃でヒドラが暴れた事が海凪が溺れかける原因になったのだが。
 「ライフガードは人を助けるのが本来の仕事だしねー」
冗談めいた口調で少年が言った。
ライフガードとはかつては海岸で溺れている人を助ける職業だったが、やがてモンスターに襲われている人を助ける職業に変わった。
確かに、今回の少年の行動はある意味ではライフガードらしいとも言える。
 「あの、名前は・・・?」
そこまで話してから、名前を聞いてないことに気付いた海凪が尋ねた。
 「しゃいにんぐ」
 「しゃいにんぐ・・・さん?あきらの知り合いのしゃいにんぐさんですか?」
少年の名乗った名前に聞き覚えのあった海凪がさらに尋ねる。
 「ん?あきら知ってんの?」
しゃいにんぐはあきらの名前が出てきて少し驚いたようだった。
しゃいにんぐとあきらは悠彩の街にある団体ギルドに所属する団体の1つ、「夢源」の仲間である。
特にしゃいにんぐは夢源の副団長。団長が不在の今は夢源の代表となっている。
海凪もあきらから夢源の事について少しは聞いていたので、しゃいにんぐの名も聞いていたのだ。
 「一応同居人ですから・・・」
海凪が苦笑を漏らした。
なりゆきとはいえあきらと自分は同じ家に暮らしている。ある程度の情報交換はしているのである。
その時、海凪は自分が何か忘れていることに気付いた。
 「って、やばっ!!」
 「ぉ?」
いきなり海凪が叫んだのでしゃいにんぐはさらに驚く。
そんなしゃいにんぐの様子も気にせずに、海凪は空を見上げた。もう日が傾き始めている。
続いて辺りを見回すと、ここが船着場から少し離れた場所である事がわかった。
結局また海岸の入り口に戻ってきてしまったのだ。
どうやらしゃいにんぐはあのまま近くの街まで海凪を連れて行くつもりだったようである。
 「すいません、急ぎの用があるので・・・。ありがとうございました」
海凪は、しゃいにんぐに軽く頭を下げると慌てて駆けていった。
 「街に戻って休んだ方がよさそうなのにな」
腕組みをして海凪の後ろ姿を見つめながらしゃいにんぐが首を傾げる。
海凪の事情など、しゃいにんぐは知るよしもない。
 「そういえば同居してる奴がいるってあきらが言ってたな・・・何て名前だったっけか」
海凪は名前を尋ねておきながら、自分は名乗らないままだった。

真夜中。悠彩の街にあるバーももう店じまいという頃に、ふらつきながら海凪がようやく街に戻ってきた。
怪我と疲労で体力は限界に近い。
気力を振り絞って自宅まで辿り着き、ドアを開けた。
 「・・・海凪?」
すると、聞きたくなかった声が聞こえた。
 「げ・・・あきら・・・」
奥から出てきたのは紛れもなくあきらだった。
 「うわ、ボロボロだし。で、ちゃんと集めてくれたの?」
海凪の心配もそこそこに、あきらは頼み事の方を気にかける。
 「ほら、水晶・・・残りは家に置いておいただろ・・・」
海凪は壁にもたれたまま荷袋から海岸で採ってきた水晶を取り出し、あきらに渡した。
 「ありがと」
あきらが戻ってくるより早く集めきらなかった事を咎められるかと思っていたが、普通に礼を言われてしまい拍子抜けした。
しかし、あきらが次に口にした言葉が海凪を愕然とさせた。
 「ま、すぐには使わないんだけどね〜」
 「・・・」
それを聞いた海凪は・・・そのままズルズルと床に座り込んだ。
 「お疲れ様〜。部屋でゆっくり休んでね〜」
悪気など全く感じられない笑顔を見せるあきらに、海凪は少なからず殺意を覚えていた。



                                  <続く>


【後書きのようなもの】
はい、書いてからどれくらい経ったのかわからない夢2小説3話です。(謎)
とりあえず今回の話を書いて思ったことは1つ!
もう海は舞台に使わない!!(爆)
こじつけ面倒すぎですよ、ええ。 わけわからないよ設定が。
それはさておき今回は夢源副団長しゃいにんぐが出演です(´ー`)
ってか出番少なかった・・・ごめん(死) 再出演するから(多分)勘弁してね♪
しかし、あきらは話が進むごとに性格悪くなってるような・・・ま、いいか(ぇ
何かもうコメントすら思い浮かばないので終わります(w
以上、作:山繭(御雷あきら) 監修(?):たとたんさん(微妙・・・謎) 友情出演(?):しゃいにんぐでお送りしました♪


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