6.真実と深まる謎(後編)


目の前に現れたこの魔物は、この世界を破壊しようとやって来た魔王・テッドデビル。
改めて魔王を前にして、その強大な気配に海凪は動けず立ち尽くすのみである。
 「お前は何者だ。あの男の手下か」
手にした蛮刀を海凪に向けながら、魔王が静かに尋ねた。
 「あの男?」
先程も言っていた。「あの男」とは誰のことなのか、と海凪は首を傾げる。一体誰と勘違いされているのか。
 「・・・違うのか。ならば潰しておいた方がよさそうだな」
1人で勝手に結論を下すと、魔王は蛮刀でおもむろに斬りつけてきた。
 「のわっ」
飛び退くようにして刃をかわしながら、海凪は慌てて小刀を抜き2撃目を受け止める。
その一撃は重く、それでいて速い。否応なしに防戦一方となる。
 「その程度の実力でいつまで持つか・・・」
わずかな攻防の間に実力の差を見抜き、魔王は不適に笑った。
次の瞬間。
ざくっ。
蛮刀が海凪の左肩を深々と切り裂いた。
 「ぐはっ」
さらに、下段から蛮刀を薙ぎ払う。
咄嗟に小刀で受けたが右手だけでは勢いを殺しきれず、小刀は弾き飛ばされ、海凪自身もバランスを崩し雪の上に倒れこんだ。
肩の傷から流れる血が雪を赤く染める。
痛みを堪えながらはっと上を見ると、魔王が蛮刀を高々と掲げ、海凪の首目掛けて今まさに振り下ろそうとしていた。
避けられない。海凪は観念して目を閉じた。
ガキン!
すぐ側で刃が何かにぶつかるような音がした。
この首を切り裂くはずの刃は・・・やってこない。
ゆっくり目を開けると、1本の槍が蛮刀を受け止めていた。
槍・・・と表現していいのかわからないくらい不思議な形の槍である。
槍の穂先を持ちながら、さらにその下には三日月のような刃と鎌のような刃が一枚ずつ左右についている。
槍でありながら鎌でもあるような、そんな槍であった。
 「・・・貴様は・・・」
その槍の持ち主を見て、魔王が顔をやや歪める。
それは黒いロングコートをまとった茶色の髪の少年だった。
目を覆いそうに長い前髪、後ろ髪も長く首筋が隠れている。
少年が槍を持つ手に力を込めると、魔王はその槍を弾くようにして後ろに退き間合いを取った。
 「確か、黒石由人・・・と言ったな。何をしに来た。ここには用がないはずだ」
 「気分だ、気分。何気なく雪山を歩いてたら魔王に殺されかけてる冒険者がいたから何となく助けた」
黒石と呼ばれた少年は魔王相手に物怖じすることなく平然と言葉を返す。
むしろ魔王の方が、幾分動揺しているかのようなそんな素振りを見せていた。
 「冒険者を狩る者が命を救うか、笑わせるな」
 「自分で倒すならまだしも、他人が人を倒すのを見てても大して面白くないだろ」
でも、と黒石が槍を構えなおす。
 「加勢と称して久し振りに魔王を相手にするのも案外楽しいかもしれないな」
黒石の顔に笑顔が浮かぶ。戦いを心底楽しむような、そんな笑顔である。
髪に隠れがちの瞳には、狂気の色が濃く表れ始めていた。
 「ヒャハーッ。」
黒石が魔王に向かって突進した。
魔王の攻撃を超える速さで間髪入れずに槍での攻撃を繰り出していく。
今度は魔王の方が防戦一方になっていた。
 「ちっ・・・」
黒石の猛攻を何とか避けると、魔王は印を結び何やら呪文を唱えた。
魔王の足元から黒い光の柱が立ち上り、魔王の姿を隠す。
光が消えたときには魔王の姿も忽然と消えていた。
 「何だよ、魔王のくせに逃げるなよな」
相手が姿を消すなり普通の少年の表情に戻り、槍を肩に担ぎながら文句を言っていた黒石が思い出したように振り返って海凪を見た。
海凪は傷の手当ても忘れて座り込んだまま呆然と黒石を見つめている。
その顔には怯えのような表情がありありと浮かんでいた。
 「ヒャハーッ・・・ヒャハーッて・・・」
どうやら魔王と対峙した時の黒石の狂気じみた姿が恐ろしかったらしい。
 「もしかして回復切らしてるとか?」
 「え、あ、あります・・・」
黒石の声にようやく正気に返った海凪が慌てて道具袋から療薬を取り出す。
ぎこちなく肩の治療をする海凪に、いつの間に拾ったのか黒石が弾き飛ばされていた小刀を差し出した。
 「あ・・・ありがとうございます」
さらに、もたもたしているのを見かねたのか海凪の手から療薬を取って代わりに手当てを始める。
 「すいません。えーと・・・黒石さん、でしたよね。もしかして・・・夢源の?」
やはりあきらから黒石の名を聞かされていた海凪は、改めて尋ねてみた。
黒石由人。団体ギルドの1つ・夢源の幹部の1人であり、副団長しゃいにんぐと並んで戦闘集団としての夢源の活動の大部分を担っている団員である。
 「ああ、そうだけど」
 「俺は海凪と言います。今、あきらの家に同居させてもらってます」
手早く応急処置を終えて立ち上がった黒石に、座り込んだ体勢のまま海凪が軽く会釈をした。
 「そういえばあきらに聞いたことがあったような・・・」
記憶を辿りながら、黒石は2,3度小さく頷いた。
 「それにしてもいきなり殺されかけてるなよな・・・今の力じゃまだ魔王は無理っぽいだろ。あきらに止められなかったのかよ」
 「あきらには言わないまま来たので・・・」
ばつが悪そうに答えながら、ふと海凪は黒石の言葉に何か違和感を感じた。
黒石は何故だか魔王の力をよく知っている、そんな風に感じられたのだ。
そういえば、魔王と黒石はお互い見知っているような様子だった。
 「黒石さん・・・魔王に会ったことあったんですか」
 「そりゃ、前に倒したから」
 「え?」
目を丸くする海凪に、黒石は首をかしげた。
 「・・・何だよ、あきらの奴その事も何にも教えてないのか?あきらだって魔王倒してるぞ?」
 「え・・・えぇ???」
思わぬ黒石の言葉に海凪が素っ頓狂な声を上げる。
黒石もあきらも魔王を倒している?この世界の脅威は魔王ではないのか!?
どうやら「真実」を何も知らないらしい海凪に、黒石が説明し始めた。
 「表向きは魔王が一番の敵みたいになってるけどな、魔王もただの『門番』に過ぎない。その上にいる奴のコマって事。
 魔王という門番を倒すことで、ようやく本当の敵に近付くための『鍵』が手に入れられる・・・とまあそういうことだ」
 「魔王の上にいる本当の敵・・・」
呟いてから、海凪は何かを思い出しはっとする。
 「闇の帝王?」
以前あきらとたとたんが口にした名前。
かつて魔王と同じようにこの夢想世界を乗っ取ろうとした人物であるが英雄と語り継がれる人物に倒された、と書物には書かれていたのだが・・・
 「何だ、知ってるんじゃん」
どうやら正解のようである。
 「魔王を倒して闇の帝王に近付くための『鍵』を手に入れた冒険者は結構いるんだけどな。まだ誰一人闇の帝王には行き着いてないらしい。
 協力し合ったりしながら近付こうとしてるんだけど、なかなかな」
 「その『鍵』って一体・・・」
 「それは俺にも教えられん」
海凪の問いかけにきっぱりと黒石が言い放つ。
 「というか教えたり渡したりできるものじゃない。自分で魔王倒して手に入れてくれ。もっと実力付けてからな」
実力不足とずばり言い切られえてしまい、反論できるはずもなく海凪は苦笑するしかなかった。
教えたり渡したり出来ないものとは何なのかと少々気になりながら。
 「さて・・・こんな寒い所で話してるのも何だし、帰るか」
海凪をその場に残してさっさと帰ろうとする黒石の後を慌てて海凪も追いかける。
 「愛馬とかは呼ばないんですか?」
 「扉の向こうじゃないと呼べないんだよ」
そんな事も知らないのかとやや呆れ顔をする黒石に、海凪は僅かに顔を赤くした。
確かに特殊な封印のせいで愛馬は壁を越えられないのだから、扉の中で呼んでも愛馬が来れるはずはなかった。
扉の前まで来ると、黒石は道具袋から6つのビー玉大の珠を取り出し扉の6つの穴にはめ込み始める。
その途中、何やら物珍しそうに覗き込んでくる海凪の視線に気付き、手を止めた。
 「何だよ。自分だって持ってるだろ?」
 「え。いや、俺は・・・」
言葉を濁らせる海凪に、黒石は不審気な眼差しを向けてくる。
 「持ってなきゃこの扉通れないだろ。どうやって通ったんだよ」
 「それは・・・」
先程と同じように、扉に手を触れる。
海凪の手が触れるとやはり扉はギイイという音を立てて開き始めた。
 「え?何で神器の力使わないで扉開くんだよ・・・何者だよ、あんた」
海凪を見る黒石の視線が、更に鋭いものとなる。驚きもあったがそれ以上に警戒の色の方が強い。
槍を持つ手に、わずかに力が篭る。
 「何者、って言われても・・・」
過去の記憶がなく自分の身の上もわからない以上、海凪も戸惑ったような表情で俯くことしか出来なかった。



                                  <続く>


【後書きのようなもの】
第6話。後編です(何)
何というかこっちでは深まるばかりの海凪の謎。
物語は違えど設定は同じなので謎の解明はメルマガ小説でのみにします(ぉぃ)
しかし、設定説明編の割に設定があんまり練られてないぞ!!(滝汗)
設定はそれなりに練ったのですが文章が練られてないだけかな〜。
とりあえず御雷の小説では無印か☆の人しか存在しないのですよ。
英雄が存在しちゃったら物語終わってしまうのでヽ(´ー`)ノ
それが表現したかっただけらしいでっす!(爆)
さて、今回のゲストキャラ(?)は黒石由人氏です。
出すって言ってからどれくらい時間経ってるんだって感じなんですがー(爆)
本人のキャラに近いのかどうか・・・書いてて自分でわからなくなった罠。
黒石氏本人から「こんなじゃない!」と突っ込み入りそうで怖いです(ぉぃ)
というわけで書き逃げします(抹殺)
以上、作:御雷あきら 監修(?):たとたんさん(かもw) 友情出演(??):黒石氏 でお送りしました♪


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