序章その1。


21世紀初頭、400とも500ともいわれる隕石群が地球に落下するという事件が起きた。
そのほとんどは海や人里離れた土地に落下したため落下による被害そのものは最小限だったが、
それ以降世界各地でとある異変が起こり始めた。
普通の人間には持ちえない「能力」を持つ人間が現れたのだ。
その「能力」とは人によって異なり、火や水などを操る者、テレパシーを使う者、
あるいは治癒の力を持つ者など様々であった。
落下直後は一握りの人間に過ぎなかったが、その数は徐々に増えていき
10年後には全人口の約25%が「能力」を持つようになっていた。
だが、落下した隕石の調査をいくら行っても何故人間が「能力」を持つようになったのかはわからないままであった。
「能力者」の出現は社会に大きな混乱を生んだ。「能力者」の中には自らの力を悪用する者もいたからである。
その取り締まりに悪戦苦闘する中、隕石の影響は更なる混乱を招いた。
落下から5年経ったあたりから、突如見た事もないような「怪物」が現れるようになったのだ。
「怪物」がどのように生まれるのかは謎のままである。隕石との関係すらはっきりとわかってはいない。
ただ、その「怪物」は地球生物のどれとも異なり、地球生物の変異体ではないということ、
そして、「怪物」は何故か敵意を持って人々を襲うということは確かだった。
怪物の正体よりもまず怪物による被害を食い止めなければならない。
人々はそう考え、既存の国際連合軍を発展させ地球規模の軍隊を結成し、各国に支部を配置した。
その名は「EDF(Earth Diffencive Forces:地球防衛軍)」。
この名前が付けられたのは、地球外の侵攻・侵略から地球を守るという意図が込められていた。
既に地球外から何らかの干渉が入っているとも言われている。
それどころか、地球外の者がもう地球に入り込んでいるとも。
奴らの狙いは地球という星か、はたまた地球の資源か、あるいは地球全体に影響を与えたあの隕石か。
それとも、隕石そのものが何者かが意図的に地球に落下させた物だったのだろうか・・・
隕石の落下から起こり始めた数々の災厄の真相は、いまだ謎に包まれたままであった。

EDF日本支部。
日本近海に落下した隕石の数が多かった影響か、日本は怪物の出現率が最も高かった。
日本支部の上層部はそれに対抗すべく怪物討伐のための精鋭攻撃部隊「SAS(Special Attacking Squad:特別攻撃隊)」を結成。
それは、戦闘的な「能力」を持った「能力者」の集まりであった。
西暦2060年、隕石落下から半世紀が過ぎ、かつて非現実的といわれた事が現実となった今、
地球防衛を担った彼ら「SAS」の面々は一体何を思って戦うのか。

いや、実際のところ、特に何も考えていないのかもしれない・・・??



台場、臨海副都心。
かつては東京湾の一部だったそこに構えるEDF日本支部の基地。
その一室、SASの司令室に今3人の男女の姿があった。
EDF参謀、近藤知彦。
SAS隊長、武山久志。
そしてSASオペレーター、宇佐見綾香である。
 「暇だなぁ・・・」
 「確かに」
 「暇ですねー」
モンスター(「怪物」の事をこう呼んでいる)出現報告もなく、3人は暇を持て余していた。
もっとも、この人たちが暇であるほど喜ばしいことはないのであるが。
何をするわけでもなくぼんやりとしていると。
ビーーーッ!ビーーーッ!ビーーーッ!
突然、モンスター出現を告げる警報が鳴り響いた。
 「モンスターか?」
 「そうでしょうね」
当たり前の事を尋ねてくる近藤に素っ気無い返事をしながら、
綾香は素早くオペレーションシステムに向かいモンスターの出現地点を調べ始めた。
 「出現地点は・・・千葉の、館山です」
 「館山か」
綾香の言葉を聞き、武山が制服を直しながら立ち上がる。
そこに、他のSAS隊員がどやどやと司令室にやってきた。
 「敵は館山だ。出動するぞ」
 「了解〜」
武山に促され、入ってくるなり隊員達は司令室を出て行った。
 「SAS出ど・・・ぉ」
出動命令のタイミングを逃した近藤の声が、SAS隊員の出て行った司令室に空しく響いた。
本来SASの司令を行うのは参謀の近藤なのであるが・・・
 「誰も僕の言う事聞いてないし・・・」
 「仕方ないですよ、あの人たちじゃ」
綾香の慰めになっていない一言に、近藤はがっくりと肩を落とした。


モンスター出現の警報は、ED本部内全体に響いていた。
もちろん、ここ兵器開発部にも。
 「あ、出動みたいだね」
 「そーっすね」
警報に作業の手を止めてのんきに会話しているのは開発部員・八木沢奈央と霞利也。
 「僕の輝かしい業績は役に立ってるかな〜♪」
何故か嬉しそうにスキップを踏んでいるのは、この兵器開発部のチーフ・森村秀弘である。
SAS隊員が武装に使っている銃器などはこの兵器開発部で作られた物なのだ。
 「いやー、何だかんだで力使って倒しちゃうから難しいんじゃないのか〜?」
浮かれ気味の森村に突っ込みが入る。
突っ込んだのは森村の同期で補佐役である茂野正雄。
 「それじゃ、兵器開発部の意味そのものがあまりないような・・・」
 「うーん、そうかもしれないな」
呆れ気味な奈央の言葉に茂野も腕組みをして考え込む。
 「よーし、それならSAS隊員の能力に負けないような兵器を作るぞー!」
森村が握り拳を高々と上げながら宣言した。
 「お、何かいい案があるのか?」
茂野が思わず顔を上げて森村を見た。
 「ない!」
 「ダメじゃん!!」
ガッツポーズまがいのポーズのまま力いっぱい否定する森村に、奈央と霞が口を揃えて突っ込む。
兵器開発部は、相変わらず謎のテンションに包まれていた。


千葉・館山。
SAS専用の移動用機で現場にやってきたSAS隊員の目に映ったのは、数十体に及ぶモンスターたちの姿だった。
 「最近ますます一度の発生数が増えている気がするな・・・」
溜息混じりの武山の呟きに、答えるわけではないのだろうが数体のモンスターが武山に向き直り、襲いかかってきた。
向かってくるモンスターから逃げるわけでもなく、武山は静かに人差し指を上に向ける。
 「ガガ?」
すると、突然モンスターたちの身体が宙に浮いた。
そして、そのまま空に向かって加速的に昇っていく。まるで空めがけて「落ちていく」かのように。
ある程度まで上がったのを確認してから、武山は指を下に向けた。
モンスターたちの上昇が止まり、今度は地面に向けてまっ逆さまに落下する。
ぐしゃっ。
嫌な音を立てながら地面に激突したモンスターの身体は・・・あまり見たくないような状況になっていた。
武山は「重力使い」。重力を自在に操れる。重力の強弱はもちろん、方向性すらも。
だから先ほどのように空に向けて「落下」させることも可能なのである。
しかし、何故だか自分に対する重力を操ることができないのが悩みの種でもあった。
 「・・・相変わらず、えぐいですねー・・・隊長の技は」
モンスターの死骸を見て苦笑いしているのは、SAS隊員・尾上一樹。
SASの隊員でありながら医者でもあるというある意味無茶苦茶な掛け持ち隊員である。
 「こういう能力なんだから仕方ないだろう」
 「それはそうですけどね」
 「!尾上、後ろ!」
武山に指差され振り返ると、背後にいた1体のモンスターが火球を吐き出そうとする所だった。
 「おっと」
火球が吐き出されると同時に尾上が手を突き出す。
バシッ!
火球は尾上に届くことなく、尾上の前に生じた「壁」にはじき返された。
腕を引くと障壁がすっと消える。
 「油断も隙もないですねー」
前方にいる数匹のモンスターを見つめたまま、僅かに斜に構え両手の平を静かに胸の前にかざした。
その手の平の間に光の塊が現れ、少しずつ大きくなっていく。
光の塊がバレーボール大になったところで、思いきり両手を突き出した。
ドォンという音とともに、その塊からさらに大きさを増した塊が一直線に飛び出していき、
進行方向にいた数体のモンスターを蹴散らしていった。
尾上は「気孔術使い」。自らの「気」を操り障壁を作ったり飛び道具にしたりするのである。
さらに、自分の気を相手に送り込む事で相手の傷を癒す事もできる。
どちらかというと整形外科・形成外科向きの能力であるが、本人は内科医なので医師の仕事には活かしていないらしい。
 「今日も冴えてるな、かめはめ破」
 「違います」
 「じゃあ、波動拳か?」
 「違います」
到底2060年とは思えない話を振っているのは、SAS隊員・堀口孝典。
パーマがかった長髪がトレードマークで何故か「スペイン系」と影で言われている隊員である。
 「じゃあ俺もいいとこ見せるかな〜」
 「どうぞどうぞ」
尾上に促されるまま、堀口は一歩前に出てモンスターたちと対峙した。
 「よいしょっと」
おもむろに数枚の紙を取り出す。七夕の短冊のような大きさの紙である。
 「〜〜♪〜♪〜〜〜〜♪♪」
そして、何やら呪文を唱え始めた・・・のだが、何故か変なリズムがついていてまるで歌っているようである。
さらに紙を2本の指にはさみ空中で何やら描いているがそれもまた踊っているようで・・・端から見るとかなり変な人であった。
 「・・・」
あまりの奇妙さ振りにモンスターすらも引いていた。
 「ほあ〜!」
妙な気合いを上げながら紙をモンスターに向かって投げつける。
すると、紙は生きているかのようにそれぞれ別々のモンスターに向かって飛んでいき、その顔に張り付いた。
 「ガ!?」
驚いたモンスターたちは慌ててその紙をはがそうとするが、それより早く紙から発生した電撃がモンスターを包み込む。
 「ガ〜〜〜」
電撃でこんがり焼けたモンスターの死骸が地面に転がった。
堀口は「呪術使い」。主に様々な効果をもつ呪紙を用いて敵を攻撃する。
実は召喚術も使えるという話もある。
だが、彼の呪術を見ていると周りが脱力するという欠点があった。
 「よっしゃー」
 「・・・どうでもいいですが、その歌と踊り何とかならないんですか」
呆れ口調で声をかけているのは、SASの紅一点・日比野香苗。
唯一の女性隊員であるが、能力がメインとなるSASの戦いの中では決して劣ることはない。
 「何を言うんすか。俺の呪術はあれがあってこそっすよ」
 「見てるこっちが気が抜けるんですけど」
 「それは慣れっすね」
肩を竦めながら香苗は近づいて来ているモンスターを睨みつけた。
真横にかざした右手の周りで空気が動き始める。始めは静かに。徐々に激しく。
その空気の流れ・・・風をモンスターに向けて放り投げるかのごとく、香苗が右手を動かした。
風は唸りをあげながら空気を裂くようにしてモンスターに向かった。
ざくざくざく。
 「ギャ〜〜〜」
空気どころか、モンスターの身体まで切り裂かれている。あたかも風が刃になったかのように。
香苗は「風使い」。風を操り風の刃を飛ばしたり、竜巻を作ることができる。
風の刃=かまいたちなのかどうかは定かではない。
ロールプレイングゲームでもよく出てくる「風の魔法」に近いものがある。
 「香苗!」
横からの声と共に、モンスターの断末魔の声が響く。
驚いた香苗がそちらを見ると、松岡章司・・・SASで最強と呼ばれる隊員である・・・がモンスターを1体片付けていた。
香苗の隙をつき襲いかかろうとしていたモンスターのようだ。
 「まだ敵は残ってるんだ、気をつけろよ」
 「ありがと、章司さん♪」
ちなみにこの2人はただ今職場恋愛中である。
 「章司さん、残り片付けちゃってよ」
 「おう。任せろ」
香苗に頼まれれば俄然やる気になる松岡は気合十分で残りのモンスターの一群に向かっていった。
握り締めた拳が光に包まれている。
その拳の一撃はモンスターの身体を貫き、あるいは砕いていく。
前に立ち塞がるモンスターをことごとく一撃で葬りながら一群の中心地点まで進んだところで松岡は足を止めた。
右手を包む光がさらに強くなる。
あまりの気迫にモンスター達も近付くのを躊躇っていた。
 「はぁっ!」
気合と共に右の拳を地面に叩きつけた。
拳を包んでいた光が地面に送り込まれ、モンスターたちの足もとの地面にヒビが入っていく。そして次の瞬間。
どがあっ!
そのヒビから光の奔流が溢れ出し、モンスターたちを飲み込んだ。
 「ガ〜〜!!・・・」
飲み込まれたモンスター達は跡形もなく消し飛んでいった。
松岡は「闘気使い」。身体にみなぎる「闘気」を使い、強力な技を繰り出すというまさに戦いのための能力の持ち主である。
自らの気を使うという意味では尾上の気孔術と通じるものがあるが、使い方は全く違っている。
松岡の力の使い方を「1人格ゲー(格闘ゲーム)状態」と称する者もいるらしい。
 「片付いたようだな」
武山が腕組みしながらうんうんと頷いている。
 「よし。香苗、帰るぞ」
他の3人を完全に無視し、松岡は香苗にだけ声をかけてさっさと帰ろうとした。
 「はーい」
香苗も突っ込むことなく松岡についていく。この2人はいつもこの調子である。
 「我々も戻るぞ」
隊長らしい口振りで、武山が尾上と堀口に帰還を促した。


                                  <続く>


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