序章その2。


その時だった。
パチパチパチ・・・
突然起こった誰かの拍手に全員が立ち止まり振り返った。
見れば、いつの間に現れたのか1人の青年が笑顔で手を叩いている。
 「いやー、さすがSASの人たち。強いですね」
 「君は・・・?」
内心「誰だこいつ」と思っていた5人の代表として武山が尋ねた。
 「僕はYSと言います」
 「わいえす?」
堀口が首を傾げながら聞き返した。イニシャルなのかそれが本名なのか、さっぱりわからない。
いきなり現れた胡散臭いこの青年にSASの面々は揃って露骨に疑わしげな視線を向けている。
 「今日はお願いがあって来ました。僕をSASに入れて下さい」
 「・・・帰るぞ」
武山の一言に、全員YSに背を向けて歩き出した。
 「えっ、ちょっと待ってくださいよ。話くらい聞いてくれたって」
呼び止めるYSの声も、5人は完全無視である。
 「ちょっと〜」
 「しつこい。撃つぞ」
後をついて来るYSに松岡が腰に下げていたSAS専用レーザーガンを向けた。
このレーザーガンは対モンスター用の兵器として作られており、
基本的に人間に向けて撃ってはいけないことになっているのだが。
 「暴力反対〜。僕はただ優秀な人材を売り込もうと」
しゅんっ。
レーザーガンから撃ち出されたレーザーがYSの頬を掠めた。
 「ひぇぇー」
YSは怯えたような表情で後退ると、猛ダッシュで逃げていった。
 「松岡・・・人に向けてレーザーガンを撃った場合は、始末書だぞ」
レーザーガンを腰のホルダーにしまう松岡に武山が冷静に突っ込みを入れる。
どうせなら撃つ前に突っ込んでおくべきだったかもしれないが。
 「あいつが人間であると言う確証はない」
松岡は松岡で妙な理屈で責任を逃れようとした。
 「でも、モンスターや地球外生物である確証もないですよねー」
尾上が正論で反論してくる。
敵意を込めて睨みつけてくる松岡の視線を、尾上もまた敵意の窺える笑顔で迎え撃った。
ばちばちばち・・・
2人の間に火花が散っているのが見えるようだった。
 「とりあえず、本部に戻ったら始末書を書いてもらうぞ」
武山が勝手に話をまとめ、呆れて見ている香苗と堀口に帰還を促した。
 「ちっ・・・」
 「当然ですよ」
松岡と尾上も睨み合いを止めて3人の後に続く。
少しして、5人を乗せた2機の移動用機がEDF本部へ向かっていった。
 「・・・」
その様子を、少し離れた場所からYSが怨みの篭った瞳で見つめていた・・・。

30分後。SASの5人が司令室に戻ってきた。
 「お疲れ様です。始末書準備しておきました」
綾香が出迎えがてら、松岡に始末書を手渡した。
事前に武山が手配していたらしい。
始末書を受け取った松岡はうんざりした表情で司令室の中央にあるテーブルの席に座り書き始めた。
 「まったく・・・大体お前たちは上官である私の命令も」
 「それじゃ、俺は医務室に戻ります」
説教を始めた近藤の言葉も聞かずに、尾上はさっさと司令室を出て行った。
 「こら!人の話を・・・」
 「近藤、うるさい」
さらに、松岡が不機嫌そうに近藤の言葉を遮った。
立場上は自分の上官であることなどお構いなしで、完全にタメ口で命令口調である。
もっとも、松岡は誰に対してもこの調子なのであるが。
 「僕の立場って一体・・・」
部下になめられ放題の近藤はすっかりいじけている。
そこに、ドアが開き誰かが入ってきた。
 「近藤くん、どうしたんだね?」
 「のわっ!そ、総監・・・」
その姿を見て近藤は慌てて姿勢を正した。
その人物はEDF日本支部総監・宮地努。EDF日本支部で最も偉い人物である。
 「最近の調子はどうかね?また出動があったようだが」
 「モンスターの出現頻度が少し増えていますが、SASの戦闘力を持ってすれば問題ありません」
宮地の質問に近藤がぴっと敬礼しながら宣言してみせる。
 「頻度が増えているか。何かの前兆じゃなければいいがねぇ」
ふと、宮地が口にした不吉な言葉にその場にいた全員は顔を見合わせた。
 「前兆・・・と言いますと?」
言葉を重く受け取った武山が聞き返す。
 「なに、宮地の独り言だ」
 「随分大きな独り言だな・・・」
軽い口調で流す宮地に、松岡が思わず突っ込んだ。

一方司令室を出た尾上は本部内にある医務室に入っていった。
尾上はこの医務室やEDF本部に隣接する国立病院・メディカルセンターに医師として勤めている。
SAS隊員としての任務もあるため、メディカルセンターにいるよりはこの医務室にいることの方が多い。
医務室は1人ないし2人の医師を含め数人の医療スタッフが常駐していて、EDF本部内での怪我・病気に応対していた。
 「あ、尾上さん。お帰りなさーい」
医務室に入ってきた尾上を出迎えたのはケーシー白衣に身を包んだ1人の女医。
メディカルセンターで研修を行っている研修医・木野内頼子である。
この医務室でも一応研修・・・という事になっているようだが、ほとんどバイトのようなものだった。
しかしそれ以上に頼子が医務室勤務を望む理由がある。尾上がいるからだ。
頼子は尾上の事が好きなのである。
 「出動中に誰か来た?」
SASの制服の上着を脱ぎ、白衣に袖を通しながら尾上が頼子に尋ねる。
 「いいえ。誰も」
 「・・・相変わらず、暇だね・・・ここは・・・」
頼子の即答に尾上も思わず苦笑した。


 「ふぅ〜ん。SAS、ねぇ」
小さい明かりがあるのみの薄暗い部屋の中で、1人の男がSAS隊員5人の写真を眺めていた。
男の左頬、そして写真を持つ右手の甲には刺青のような紋様がある。それは何かを象ったようにも見えた。
 「こんな連中がいるとなると・・・そう簡単にはいかないかもしれないねぇー」
写真を持っていた指を離すと、5枚の写真がぱさりとテーブルの上に落ちた。
 「とりあえず、じっくりと計画を練りますか・・・」
目線を上げ、テーブルの前に控えていた2人の男それぞれと目を合わせる。
どちらもやはり左頬と右手の甲に紋様があった。
だが、紋様が象るものはそれぞれ異なっている。
2人は1つ頷くと部屋を出て行った。
 「計画・・・ね」
静かに呟きながら、テーブルの上の5枚の写真から1枚を取り上げる。
その写真を見つめる男の顔には楽しそうな微笑みが浮かんでいた。


西暦2060年。
大変革期であった21世紀。その中でさらに何かが動き出そうとしていた。


                                  <続く>


 【前書きのような後書き】
ついに始まりました「利己的地球防衛隊」。
素敵なくらい私の趣味に片寄りまくりの話です。地球防衛軍に超能力ですからね。
この話はもともと予備校時代に書いた話を設定やキャラの名前を変えてリメイクした作品なんですが、
元の話をそれなりに忠実に再現するために新たに設定練り直すのは案外大変でした(爆)
一応のキャラ紹介はこの序章でしたつもりですが、まだまだです。(何)
森村チーフとかまだ本領発揮してません。霞くんも活躍して欲しいものです。
というわけで次の第1章では兵器開発部の活躍に乞うご期待!(ぇぇ
これからも全員暴走していってもらわなくては。そういう話だし。(爆)


序章その1 戻る